カムイ伝

イメージ 1

この漫画少し重いテーマなので何を書くべきか迷うところであるが、私個人の社会概念の形成に少なからぬ位置をしめる書であったので取り上げて起きたいと思う。

忍者を主題とした漫画も数あるがともすれば忍術の技巧と戦闘に主眼が置かれて、忍者の発生由来、時代背景、社会的地位などについて知らせてくれるものが少なかった。白土三平は超人としての忍者ではなく当時の封建社会に組み込まれた一つの職業集団としての忍者を描くことに労を献じている。まずは白オオカミの誕生から話が始まる。彼はその毛色の違いから敵からの標的にされやすく次第に親兄弟たちからのけ者にされてゆく。孤立した彼は一匹で生き抜くことを覚えていきたくましさを身に付けてゆく。

そして人間社会に転じてキーパーソンを3人登場させる。花巻村農民の正助、日置藩次席家老の子草加竜之進、そして下忍カムイである。徳川封建社会という人と人の結びつきが決して一つとなりえない社会の中で均衡を保たせるのに支配階級がどのような手練手管を用いるか、農民が被支配からどのように身を守っていくか、その二者のエネルギーをそぐためにどのような階級が存在したかを読み取ることが出来る。3人がそれぞれ白オオカミよろしく自立した生活を打ち立てるための彷徨を始めるが、期せずしてそれぞれが自分の所属する階層から離れて他の階層に身を置くことで客観化した自己を見つめて力を蓄えていく。しかしこの時代にまだあろうはずもない近代的自我を求めていくには封建的規範が立ちはだかり結局3者とも志半ばにて挫折を味わうところで第1部は終わる。

この第1部は1964年から71年にかけて雑誌「ガロ」に連載された。作者は全3部作を目論んでいたようだが、第1部完結のあと第2部以降は世に出ることなく現在に至る。一つには話が大きくなりすぎて作者自身まとまりがつけられなくなったのではないか。二つには正助を殺してしまっては読者へのアピールが著しく弱まったのではないか。そして時代物の劇画が読まれなくなってきたことがあげられよう。

とはいえ忍者としてのカムイのキャラクターはやはり漫画作品のスパイスとして見落とせないものだ。変移抜刀霞斬り、飯綱落しなど格好よさを印象付けられたのは素直に楽しみとしておきたい。