手塚治虫・バンパイヤ(第一部)

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夏はホラー、いろいろな作品があるが私は手塚作品の中でも異色のホラー作品であるバンパイヤが印象に強い。これをホラーというのに異論を唱える向きがあるかもしれないが、他の手塚作品のようなヒーローが登場せずひたすら世界の王になろうとするロックの野望で次々と人が殺されていく展開はこと手塚作品の中においてはホラー的要素が強いものである。
木曾の夜泣き谷での火祭というおどろおどろしい場面でプロローグが始まる。ここから出てきた立花特平(トッペイ)という少年が虫プロを訪ねてきて彼がこの話の主人公なのかと思う。ところがロックが登場しトッペイが月夜の晩に狼に変身するのを見てその弱みに付け入って従属させやがて革命を試みるバンパイヤ一族を自分の野望に利用しようとする。話は二転三転していくがロックとバンパイヤ一族 対トッペイ、手塚治虫(登場人物)、ヒゲオヤジという形に収束し最後はロックが殺された人たちの亡霊とトッペイ一家に追い詰められ海に逃げ込むというところで終わり、決して悪が滅んだわけではない。子供向けの連載漫画は多かれ少なかれ勧善懲悪的ストーリーが多いがこの作品は悪魔の使いロックの思うがままに話が進むのに戸惑った少年達が多いのではないか。手塚自身はシェイクスピアマクベスを土台にして書いたと言っているが、私の読んだ限りでは人を殺し亡霊に追われること以外に類似性は判らなかった。それよりむしろ今も日本の根底にあり続ける一つの社会問題に触れるような思いだった。この作品が差別的とか社会問題化したという話は聞かないが、私にはどうも手塚が意図的にこの問題を提起したかったように思えてならない。