回想電車

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  赤川次郎著 集英社刊 1400円

 

さらっと読み通してみてこれは浅田次郎の作品かなと思うような作風であるが次郎は次郎でも赤川次郎である。推理小説作家赤川のもう一面を見るような出来である。全体のテーマとしては{人はちょっとしたきっかけがあれば人に優しくなることが出来るんだよ}ということで、その優しさのきっかけは忘れていた過去が呼び覚まされるときだ。いや、人が過去を捨てようとしても捨てきれないのは優しい気持ちを呼び覚ましたい時があるからだろう。

 

1990年代に雑誌に出稿された短編小説9本をまとめた作品集である。将軍としてはこのタイトル名が気になり手にとった。タイトル作品は一番最後に収められているが真っ先に読んでしまった。

 

終電車に乗って座っていると次々と声をかけてきてくれる人たち。その相手とのかかわりを思い起こせば華やかなりし頃の自分が蘇る。殺伐とした電車の中で酔いがまわったせいもありほのぼのした心地になってくる。そして夢の中へ…

 

手帳 最近封切りになった映画「クローズドノート」を見に行くならその前に一読するとよいかもしれない。案外こういうことかも。

 

スキャンダル、カーテンコール、芸能界では他人の不運で運の開けることがあるがそれへの代償はどこかで払わなくてはならない。

 

スターダスト これも芸能界ものだが私はこの作品、 高島礼子高知東生を思い浮かべて読んでいた。

 

妻の眠り 推理小説作家の片鱗を見せている。中盤筋立てがなんだか安っぽいなと少しあきれながら読み進んだが、警察官がその結末を見通した上での行動だったとわかる仕上がりは肝にすとんと落ちる。

 

自転車置き場に雨が降る これも結末の意外性という点では推理物らしさが漂う作品だが、主眼は団地と言うコミュニティにおける一つの誤解の広がる怖さであろう。その中で生きていくことの難しさ。

 

代理人、ランチタイム こんなこともあるのかなという設定だが女性の思いの複雑さがよく描かれている。