だから混浴はやめられない

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  山崎まゆみ著 新潮新書 2008.10.20初版

若手といってもいいだろう、混浴が大好きな女性フリーライターの書いた混浴賛歌。このような女性がいるというのを知るだけでも興味津々だが、著者が現在日本に数少ない各地の混浴温泉を訪ね現地の人たちと知り合いそこにある混浴のすばらしさを訴えるのに共鳴できたら面白い本であろう。著者自身は新潟県出身で混浴の多い地。不妊に悩む彼女の母親が湯治に出かけて彼女を身ごもったというから彼女には生まれつき温泉好きの素養があった様だ。その上で10年前に混浴デビューをしたときの体験が忘れえぬものとなって殊に混浴のよさを知るにいたった。とはいえ現在わが国では風紀上の理由から公共の風呂は大部分男女別になっている。しかしもともと江戸時代ころから始まった湯屋(銭湯)は混浴が当たり前であり、それが鬱陶しい日常から人々を解き放ちコミュニケーションを広げかつ社会のルールを学ぶ場であった。それによって風紀が乱れたような記録は見られないのだが明治以降の近代化を推し進める政策の下に姿を消していった。今の世の中個人に自由の概念は定着したが人同士の関係というと鬱陶しい事に追われ出会いの場は少なく心を開いて打ち解ける相手は身内にすらないという状況が広がっている。そのようなときこそ失われし風習を今一度と説く。また温泉には含有成分によりさまざまな効能が知られているがいずれにせよ温泉に入るときゆったりした気分になることでその効果が上がるというものだ。著者が描く人知れぬ温泉郷にある混浴での情景がそのような気分をもたらし「冥土の土産」になったり「10年はなごう生きられる」ように見える。なお巻末には著者の選定による「混浴温泉ベスト50リスト」が記されている。それによると多くが東北から北関東に存在している。わが関西には少ないようなのが少し残念…