Old Brown Shoe

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先日のニュースによるとザ・ビートルズのベスト版といえる赤盤、青盤(THE BEATLES/1962-1966、THE BEATLES/1967-1970)がリマスターされ10月18日に発売されるという。昨年正規アルバムのリマスター版が発売されているだけにこの2枚もリマスターの希望が多かったのだろう。ビートルズを初めて聞く人が最初に手にするのに好適なアルバムだから。私もこのアルバムからビートルズの世界に入っていった一人である。私自身1973年にビートルズへの関心が高まってきた丁度そのときにこの2枚のアルバムがレコードで売り出されたのでさっそく買ってきた。聴いてみるとその中の半数近くはビートルズと意識してなくてもどこかで聞いたことのあるメロディーであることに気がついた。「あ、この曲もビートルズのものだったのか」と知り、ビートルズのすごさを改めて認識することとなった。そしてそこから深くハマっていったのである。再生することはないけれど今もレコードラックの中にしまってある。

 

そんなすばらしいアルバムなのだが唯一不可解だったのは青盤に収められているOld Brown Shoeという曲である。もちろんそれまでに聞いたことのなかった曲だった。ほかの曲はたいてい1,2度聴いて頭にスッと入ってきたものだがこの曲だけはどうも印象が残らない。あまり抑揚のない展開でサビも呟きみたいで親しみにくい。アルバム収録曲の中ではこの曲だけがヒットチャートにランクインしたことがないというし、どうしてこの曲が収録されたのか疑問が残った。

 

そもそもこの曲ジョージの作品なのでレノン・マッカートニー作品とは毛色が違うことはすぐわかる。初めてリリースされたのは1969年発売のシングル版「THE BALLAD OF JOHN AND YOKO」のB面としてである。ジョージ作品がB面になったのはいくつかある。アルバム収録されたのは1970年ビートルズ解散とほぼ同時発売となった「HEY JUDE」においてである。ところがこのアルバムそれまで他のアルバムに収められなかった曲をいくつかまとめてできたもので寄せ集めの感を免れない。また青盤の解説書によると「Old Brown Shoe」は録音期日が不詳で「ジョージの作品の中でも古い作品のようです」とある。なかなか表に出せずに冷や飯を食らわされた扱いである。

 

歌詞を読むと独り身の寂しさを味わってきた僕だけど君と出会ってからはとても幸せ、これから僕は立派な歌手になるつもりだからどうかいつまでも一緒にいておくれ、というような内容である。歌詞中にold brown shoeという言葉は1回出てくるが靴そのもののことを言っているのではなく独り身の侘びしさの比喩表現として使われている。だからshoesでなくshoeなのだろう。ジョージは映画「YAH YAH YAH」の撮影中にモデルのパティ・ボイドと出会い交際を続けて1966年に結婚している。この歌はおそらくそのころ彼女へ向けたラブソングとして作られたものだろう。ジョージ自身には愛着ある作品でも他のメンバーやスタッフたちには単なるノロケにしか聞こえなくて商品化するのを躊躇して長らくお蔵入りになってしまったということではないだろうか。

 

今般知ったことだが、赤盤、青盤の選曲にはジョージが携わったということだ。ああ、それでか。ようやくこの曲が青盤に収録された理由がわかった。それはビートルズメンバーであった間抑圧され続けてきたポール、ジョンへの意趣返しだったのだ。なかなか世に出してもらえなかった自分の曲を広めるチャンスが今巡ってきたとばかりに入れることにしたのだろう。ご丁寧にポールが「独り身の男も孤独にゃ勝てぬ」と歌った「Get Back」やジョンがヨーコとのハネムーンでのノロケまくりを歌った「The Ballad Of John And Yoko」のあとに並べている。「こうして聞き較べると僕のセンスってまともでしょ」と言いたげだ。ジョージはこの曲がお気に入りで後年ソロコンサートでもしばしば取り入れていた。

 

蛇足ながら私個人の思いを記す。ポールやジョンへの意趣返しなら「Only A  Northern Song」という強烈な皮肉を交えた曲にすればよかったのにと思うし、私自身が1967~70の間のジョージ作品の中で青盤において「Old Brown Shoe」に替わる曲を選ぶとすればまずは「It’s All Too Much」にする。次善としては「Within You Without You」であろう。