TPPについて思う

TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)へのわが国の参加が取りざたされている。国内での結論もまだ出ていないが野田総理は今月行われるAPECでTPP参加の意向表明する予定でいる。参加によって国内の経済がどうなるのか不透明な部分が多いだけに国民全体が態度を決められないでいる。

 

地球上には経済その他の共同体を形成する地域がいくつかある。欧州にEU、北米にNAFTA、東南アジアにASEANなどなど。それぞれの地域内での関税を撤廃し輸出入の障壁を少なくすることによって地域全体の経済発展を進めようとするものだ。EUなどは統一通貨が流通しもはや一国家とみなしうる主権すら持ち政治的発言力も強い。翻って日本を含む東アジア地域を見るとその地域内の経済活動は巨大であるにもかかわらずそれを統括する組織はいまだに結成されない。人種的には同じモンゴロイドに属する諸民族が一つにまとまることを念願する思いは確かに一部存在する。しかしすでに地域内共同体が根付く他地域と東アジアでは何が違い、そしてこの東アジアに共同体は必要とされているだろうか。

 

上に上げたEUNAFTAASEANはいずれも参加国同士が近隣にあり国の規模に大きな開きがなくさらに政治理念が近いものが集まっている。特にEUは欧州経済共同体として西ヨーロッパの6カ国によって発足したものである。6カ国は第二次大戦中は敵味方であったが冷戦当時共産主義勢力と対峙することになった国土はともすれば米国の影響下に置かれそうだった点で一致していた。それを嫌ったフランス主導で、一筋縄ではなかったろうが当初あくまでも経済問題に特化して成立することができ、結束を強める布石となった。ASEANにしてもすぐ近くのベトナムで紛争が続いている横で反共勢力としてまとまる必要があったためである。日本の場合地理的人種的に近い中国は強大な共産主義国家であり同盟を結ぶどころか対峙すべき相手だった。やはり共産主義と対峙していた韓国は国是から日本のパートナーとはならなかった。そのような状況で経済交流は現在よりはるかに少なくそこに経済的結束を求める必要はなかった。

 

さてTPPは2006年にAPEC参加国であるニュージーランドシンガポール、チリ、ブルネイの4ヵ国が発効させた、貿易自由化を目指す経済的枠組みで太平洋のどちらかといえば南側に偏在する国々の間の関税撤廃が目的に作られた。ところがその後米国、オーストラリア、ペルー、ベトナム、マレーシアの5ヵ国がTPPへ参加することで様相が変わってきた。特に米国の参加はその取り扱い規模を格段に大きくさせた。もともと米国はNAFTA北米自由貿易協定)により隣国カナダ、メキシコとの貿易自由化を進めている。それなのに今あえて太平洋全体にその方向性を広げようとするのは米国の貿易相手が隣国よりは太平洋を越えた国々とのものが大きいからだ。もはや地域内交流が世界経済全体を引き上げていく構図は崩れている。その流れの中で日本がTPPに参加することが求められている。日本は東アジアの一員という位置づけの中でこれらの参加国とどのように接したらよいのだろうか。

 

①TPPでは例外のない関税撤廃を目的としている。だが関税自主権というのは主権国家として欠かせざる要件の柱であるはずだ。今まで関税撤廃というものを日本自らが唱えたような経緯はないし、自国と相手国のその権利を尊重することこそが国際平和に寄与するものと考える。思い出してみて欲しい。明治の初め日本は外交への無知から諸外国と不平等条約を締結させられ自国で関税を決められなかったことがあり条約改正に長い年月がかかったことを。今ここに関税撤廃を行うなら苦労して勝ち取った主権を放棄することに他ならないではないか。
②環太平洋の一員という位置づけであるけれど地域間協定とするにはいささか範囲が広すぎるのではないか。たとえば東南アジアの国とチリとを同列に扱うことにメリットはあるだろうか。確か現在のところ日本とチリとの間に直行便は設定されていないはずだ。かの国と人的経済的交流はそれほど大きくはない証左である。そのような国に対していきなり門戸を開いて関税を撤廃させようというのはお互い性急ではないか。
③今ヨーロッパが苦しんでいる。ギリシャの国家財政危機から通貨不安がヨーロッパ全体に広がっているのだ。EU内単一通貨であるがゆえに一国の経済危機が地域全体の信用不安を起こしてしまうのだ。それが連帯責任となり主に独仏などの主要国が支援の手を差し伸べざるを得ない。それは旧来の国家間不和を引き起こしかねない。仮にTPP加盟国の中で財政危機に陥る国ができてしまったらそれを支援していくのは経済規模の大きな米国と日本が中心となるだろう。それだけの度量と覚悟が日本国民全体のコンセンサスになっているか。
④TPP内部での諸問題はひとまず置くことにしよう。TPP非参加国との間はうまくいくだろうか。非参加国とは警戒感から保護主義が強まりより高い関税を掛けられるかもしれない、あるいは特定品目に輸出規制を掛けられるかもしれない。TPP非参加国同士の結びつきが強まりTPPに参加した日本がその方面で国際競争力を失う恐れもある。韓国が米国やEUと個別にFTA自由貿易協定)を結んだことに注目するべきだ。日本には警戒感があるゆえに日韓二国間交流に一定の歯止めを失いたくはないという意思が読み取れる。ここでその是非を論じることは控えるが、自国産業がある以上国際経済交流にはおのずと限界があることを学習する必要はあろう。現在のところ中国やインドがTPP参加の意思表明はしていないことにも留意する必要がある。

 

私も当初発足当時のEUASEANなどの発展を夢見て日本が何らかの地域間協定に参加することが望ましいかと考えてみたのだが、書き進んでいくうちに事前にしっかりと得失を見極めることが第一と思うようになった。けっして反対するわけではないが参加する前に明らかにすべき諸問題がいくつもあるというのが結論である。