ALWAYS三丁目の夕日’64における医療的情景

現在公開中の映画ALWAYS三丁目の夕日’64はシリーズ3作目となり前作から少し時代が下って1964年の設定となった。この年は東京オリンピックが開催され日本経済の発展に弾みのついた年だった。作品中の人物設定は前作と同様で2つの家庭の人間模様を通してこの年にあった出来事や風物を描き出している。時は高度成長の幕開けの頃、人々は上昇志向に乗ってより豊かな生活を求めて日々を送っていたのだが、物質的に豊かな安定した生活が幸せなのかという疑問を投げかける。「幸せとは何でしょうな」と登場人物に語らせて見る者に問いかけているが、答えはおそらく好きな人やものと一緒に過ごすことができることなのだと察することができた。どんなに時代が変わってもそのことを忘れないでいて欲しいというメッセージを現代に生きる我々に伝えている。

さて劇中さまざまなエピソードが盛り込まれているがその中で星野六子に恋人が現れその成り行きがストーリーの大きな柱のひとつになっている。恋の相手は彼女が火傷の治療で受診した病院の青年医師菊池であった。最初の出会いからしだいに思いが高まって行くがふと耳にした噂から彼の素性に疑念を抱く。いかがわしい場所への出入りをする彼は果たして何者?気になるまま彼からの誘いを断れずについていく六子は幸せになれるのか?
実は菊池は千葉の漁村に住む開業医の息子で、現在は東京で勤務医をしているがゆくゆくは親の仕事を継ぐつもりでいる。その傍らで十分医療を受けられない社会的弱者を対象に無料診療を行っていた。そのために勤めていた病院を首にされたりしていた。しかし誤解が解け医師としての熱意が六子や鈴木オートの人間たちに理解されて二人の縁談は進みゴールインとなる。

映画のストーリーとして楽しめるのだが、無料診療という行為については少し考えてみたい。あまり表面化したことはなかったが1964年当時そのような事実はたしかにあったようだ。映画の中でもそれは病院の医師らが行うことを禁止し懲罰の対象となることを示しているが、どこか好意的描き方に思えた。でもそれでいいのだろうか?
支払い困難な弱者たちが医療を受けられないことはあってはならないことだ。その解決は社会問題としてしかるべき機関が行うことで少数の医師の義侠心だけでなしうるものではない。医師の崇高な理念によって始めた診療行為そのものに人後に落ちる点はない。しかし患者に施す薬剤や衛生剤をどのように調達するかという点になると正当な方法は見つからないのではないか。勤務する医療機関などからくすねて来ざるを得ない。そういう虞から医療機関側としては無料診療は禁止していたのだろう。二つ目の問題点は無料で医療を患者に提供する場を与えてしまうと(有料の)正当な医療を受けようとしなくなることだ。最初は節度ある態度で望んだとしても次第に甘えが強くなりやがて疲弊してしまう。ともすれば社会正義から発した行いが結局は流布する病を闇に葬ることになってしまい公衆衛生上対策を遅らせてしまうことになりかねない。そしてもうひとつたとえ人道的な思いからであってもアウトローへ手を貸すことは悪の存在を認めることであり大変危険なことだと思う。手を貸した者自身が悪の世界とのかかわりを疑われることになるし手を切ることはとても難しいことだ。映画では誤解が解けて善行と思い直してもらえる展開となるが現実ではこうはいかないだろう。この映画の「幸せとは何か」という問題提起に合わせて人道と社会規範のどちらに重きを置くかを考えさせはするが、私個人としては人道とすんなり答えることには躊躇する。

それから医師が出世や名誉を得ること求めず故郷で暮らす生き方を選ぶという話も出てくるが1964年という時代背景に照らしてそう簡単にいくだろうかと思う。今でこそ地域医療というものが重視されその地域住民の健康衛生保持に重要な役割を担っているが、当時地方で十分な医療設備が揃っているところは少なくて命を救えないことも多かった。医師が地方へ入ってしまうと医療の進歩からは取り残されてしまうことを意味した。その昔の医学はまだパターナリズム権威主義の匂いを強く残していて地方の医者などは中央の学会からは下に見られ言う事に耳を貸してもらえることはなかった。その一方で医者としての実力がなくても患者に高飛車な態度であたり食べていくことができた。そのような生き方を身につけてしまうと若き日に抱いた理念などは忘れてしまったことであろう。地域医療が最先端の医療と連携して総合的なケアを行えるようになるのはもっと後の時代になってからである。

以上、ALWAYS三丁目の夕日’64を見た後、その時代の医療面はどうだったかちょっと考察してみた。私個人この映画を見て泣ける場面もあり堪能したが、昨今昭和へのノスタルジーが暖かい語り口で伝えられるばかりなのは一面的であるとも思っている。

2012.3.1観賞