昭和の車掌さん乗務録

坂本衛著 宝島社刊 2014年5月23日 第1刷発行
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18歳で国鉄に就職し昭和35年から民営化直前の昭和62年までの27年間車掌として職務を全うした著者が職務で体験したエピソードをつづったもの。これまで鉄道関連の雑誌などに掲載された内容を加筆修正の上まとめたものなので熱心な鉄道雑誌愛読者なら読んだことのある話が多かったであろうが私は初めて読んだ話ばかりで楽しめた。

 

国鉄は内部で昇進への関門がいくつもあるところで車掌になるための試験も15人に一人の合格という狭き門だった。車掌になってからもその中でも序列があって駆け出しのころは厳しいスケジュールを割り当てられ乗り心地最悪の貨物列車の緩急車に乗務する。そして普通旅客列車を乗務して専務車掌となって急行・特急列車に乗務するようになる。その中で上司・同僚、関連業者、乗客らのさまざまな人間模様を眺める。真面目なだけでは務まらない車掌の仕事、手こずる乗客への対応や列車の遅れを招いたミスへの埋め合わせなど生々しい記載がある。本書への感想文の中に「小さなミスをごまかそうとする態度が不快だ」というようなものを読んだが、時効とはいえこれまで隠されていた事実を打ち明けた勇気は一定の評価を与えてもよいと思う。今のJR内でこのようなミスを犯せば公な問題になるだろうが、その結果マスコミがそのあと次々と同様な小さな事例をあげつらう傾向があることにはいささか辟易するものがある。国鉄時代なんとか部内で処理することで巷間を騒がせることが少なかったのもある意味良い時代だったといえるのではないか。個人的には鉄道ファンとしては魅力多い列車と思っていた急行「だいせん」きたぐに」が車掌泣かせの車両だったと書かれた部分が印象深かった。