七時間半

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1960年に雑誌に連載された喜劇作家獅子文六の小説の文庫本化である。舞台は当時東京~大阪を七時間半かけて走っていた特急列車ちどりの特に食堂車周辺の模様を描いている。実相の1960年といえば現首相安倍晋三氏の祖父に当たる岸信介が首相だった時代で、鉄道に関しては国鉄全盛時代その最高峰の列車である特急つばめが客車列車として最後の奮闘をしていたころである。この小説はそれらをモデルとしたことを伺わせる内容が続く。まずそういった時代背景を承知の上で目を通す必要がある。

 

ストーリーの軸は食堂車コック助手とチーフウェイトレスとの恋愛の成り行きによって進められていくがそこへ食堂車の他のスタッフ、ちどりガールと呼ばれる女性乗務員、母息子連れ・大阪の会社社長・酔客などの乗客や乗客を装ったスリ団などが絡んできてどちらへ話が進んでいくのか最後まで分からずに読ませていく。現代の人間が読んでも七時間半という時間が長く感じられないような軽快なテンポの読み物である。

 

鉄道趣味的には当時の特急列車の舞台裏を知ることができ、特に食堂車に携わる人間は男も女も重労働であることをよくわからせる。また列車ガールといった接客サービスが往時存在していて沿線療養施設の療養者との交流が実際にあったことも知ることができる。私たちは普段乗客として列車の快適さばかりに目が行くがその裏で何人もの人たちのご苦労によって成り立っていることを気付かせた。

 

ちくま文庫刊 840円+税