ねじ式のこと

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私も生身の人間、うつモードになることもある。そんなとき目を通したくなるのはつげ義春の漫画。世のつげファンの中には全ての作品を蒐集する向きもあろう。しかしかれの作品は「ねじ式」を始めとするガロ時代に作風が確立したといってよい。そこに生まれた作風が病む心を持つ者に落ち着きをもたらすのだ。だから私はガロ以降のものが興味の対象である。ガロ以前の作品が劣っているというわけではない。「腹話術師」「蟻地獄」など優れた作品は多い。ただガロ時代にはつげの心情が余すところ無く描かれていると思う。
その中でもエポックメイキングなのはやはり「ねじ式」だろう。何回読み返しても内面に広がる世界に身を置いて落ち着くことが出来るのだ。主人公も病んだ身を救って欲しいという心の叫びを発し続けている(そこにわが身を投影したくなるのだけど)。そして出会っていく何人かの人物から聞く言葉に一時救われる気がする。いわく「なるほど君の言わんとすることがだいたい見当がつきました」「目をとじなさい。そうすれば後へ走っているような気持ちになるでしょう」「これには深ーいわけがあるのです」…
しかしそれらの言葉に本当の救いは無いことを知ってさらに気が焦るがそうして出会う女医にねじを締められることによってやっと治る。言葉では救われることの無い者が体を締め付けられることによって落ち着きを取り戻すと言うアイロニカルな結末が、気を病む者をして主人公と同一化させていくのだ。救われたのか救われてないのか分からないままに世間に身を置くことに何となくアイデンティティを見出すうつ患者を象徴的に描いていると思う。