悲しき鉄道員

国鉄職員84歳の老人。保線区で現場主任を勤めていた。リタイヤしてすでに20年。共済年金の手厚い保護により悠々と暮らしてきたが、最近認知症が進み家族の力で介護しきれず老人ホーム入所となった。この人に習癖が一つあった。夜になると部屋から出てきて大声で「安全確認。右よし、左よし!」と言いながら廊下を歩き回るのだった。職員が止めても毎夜続くのだった。一計を案じたある職員、彼が廊下に出てくる時間を見計らい黄色いヘルメットを被って待っていた。果たして彼がやってきて彼が口をあけようとしたところへ立ちはだかりそして敬礼した。「確認作業終了しました。異常ありません!」というと彼はおもむろに「よし、ご苦労!」と一言言い残して静かに自分の部屋へと戻っていった。それからは職員の夜間見守り用の黄色いヘルメットが用意されている。