世界一周!大陸横断鉄道の旅

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櫻井寛著 PHP新書361 2005.8.31刊行 800円


著者は写真家として世界を旅しているが、もちろん鉄道の愛好家である。世界には日本では味わえない長距離を走る列車がある。アジア、北米、オーストラリアの各大陸を3泊以上かけて走る大陸横断列車だ。ここでは中国の「シルクロード特快」、オーストラリアの「インディアン・パシフィック」、ロシア・シベリア鉄道の「ロシア」「バイカル」、カナダの「オーシャン」「メリディアン」「カナディアン」、米国の「エンパイア・ビルダー」「ブロードウェイ・リミテッド」を取り上げている。各国工夫を凝らした豪華な設備の特急。もっとも特急とはいえ都市間をひとっとびというような高速ではなく遅れが出るのが当たり前。日本なら特急券払い戻しとなるような3時間以上の遅れも珍しくない。しかし乗客も心得たもの。何しろ広い土地を走るので行けども行けども同じ景色が一日続く。ところが山を越えて夜が明けるとガラリと変わる風景。それをラウンジカーから眺めて思わずもれる感嘆の声。それをネタに乗客同士で歓談して社交の場ともなる。ゆったりした非日常の空間を心行くまで楽しむ。これこそが鉄道の旅の醍醐味なのだ。どの列車も1か月前から予約を入れてもなかなか取れないらしい。飛行機なら一日で着く距離をわざわざ鉄道に乗って数泊の旅をしたいという需要はかなりあるのだ。

ブルートレイン廃止ちょっと待って!

日本は世界有数の鉄道王国でその輸送密度・ダイヤの正確さ・安全さは誇るべきものである。ただそのために国民には鉄道とは時間通りに動くものという観念が固定化されているあまり、鉄道を単なる移動の手段としか思えなくなっているのは少し残念だ。「あさかぜ」「さくら」そして近々「出雲」と古くから親しまれてきた列車が姿を消す昨今である。乗車率が3割に満たないというのでは採算的に難しいのだろうが、「飛行機や新幹線に乗客を奪われた」という考え方はちょっと違うのではないか。海外の例を見れば分かるように長距離列車の乗客は飛行機にはないような時間にとらわれない5感を楽しむ旅行を求めて乗るのであって決して飛行機の代替や補完という目的ではない。日本の旅客も鉄道事業者もそのことに目覚めればたとえ飛行機や新幹線や高速道路が網羅されても長距離列車の活路は十分見出せると思う。