You Never Give Me Your Money

Abbey RoadのB面の1曲目Here Comes The Sunで
太陽が明るく射す喜びを歌っている。太陽へのポジティブなイメージはどの民族でも持っているであろうし分かるのだが、次のBecauseでは
世界が回るから俺を変えていく/風が強くて俺の心に吹きすさぶ/空が青いから俺は泣けてくる
と自然から受ける心の変化を嘆じている。

 

2曲目、自然現象の人間の内面への働きかけを歌うのは和歌や俳句をたしなむ我が日の本の民のお家芸であると思っていたらユニオンジャックの青年達が詠嘆調に歌っているのが意外に思える。おや、と思って聞く者は3曲目以降へと引き込まれるのである。

 

すると3曲目では
お前は俺に金を渡さないで空手形ばかり出す。談判してたらお前は泣き出す
俺はもうお前に曲を渡さない、今の俺の状況だけは知るがいい。あれこれ投資してきたが俺はもう破産だ!

 

と極めてビジネスライクな話に変わる。当時アップル社がでたらめな経営をしていたことへのポールの苦悩をそのまま歌詞にした曲である。カネがどんどん消えていくことにアップルの支配人アラン・クレインへの不信を綴っている。

 

結局ここまでの3曲でジョージ・ジョン・ポール3人の立場の違いを浮き立たせることになっている。ジョージはそれまでポールに抑圧されていたものから氷が溶けていくように解き放たれ独自の音楽観を出すことができた。ジョンはヨーコと共に内面の悲しみを見つめなおすことで猿回しの猿のごとく踊らされていたビートルズメンバーからの脱却を求めた。一人ポールだけが壊れそうになっているビートルズのマネージメントに奔走していた。(リンゴはというと蛸のように海の底にこもって一人のんびりしていたいのであろう)

 

どこにもない不思議な気持ちとは何なのか。ポールが苦悩からの逃避のためにドラッグに走っていたのか。 1234567でいい子はみんな天国へ昇れる気持ち。ラリラリ~♪

 

そこで気になってくるのはこの曲の最後でこおろぎのような虫の鳴き声が聞こえてくるところである。我々日本人としては曲のメロディーに彩りを添えて叙情性を高めているように聞こえる。
静けさや岩に染み入る蝉の声 あるいは 行水の捨て所なき虫の声 の感性である。
いわば音楽の一部として感じ取っている。

 

でも欧米人にはそのような感性はないであろう。虫の鳴き声を我々日本人は感情や直感を統制する右脳で聞き取るのに対して欧米人は理性や知能を統制する左脳で聞き取るといわれている。だから欧米人にとってはあの泣き声はただのノイズにしか思えないはずである。こおろぎはじめ虫そのものへの概念がネガティブな存在である。それをなぜビートルズ、いやポールは入れようとしたのか。私が思うのは交渉相手のアラン・クレインがいつもこおろぎのようにちろちろと小声で言い訳がましいことを言うのにいらだっていることを示唆したものではないか。

 

ビートルズ」というのは無論英語のカブトムシbeetleをもじったものだが彼らがカブトムシをどう思っていたか興味あるところである。日本の子供たちには強くカッコいい昆虫の王様だが彼国の子供にも同じとは思えない。あるいは形から夜中に家に紛れこむカナブンの大きい奴に見えるかもしれない、またあるいは色からゴキブリと同類にしか見えないかもしれない。けっしてよいイメージとは限らないのである。

 

そしてまたこの曲の最後の虫の泣き声が曲全体に与えるインパクトも彼我の聴く者には違いがあると思うのである