円満退社

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  江上剛著・幻冬舎・2005年11月10日第1刷発行

銀行業務に精通した作者がある銀行の一支店を舞台におこる出来事を小説化したもの。
東大を出て大手都市銀行に入り揉まれ続けて勤続34年、家では悪妻にしかれ続けた結婚生活26年。
本日都内の支店長として最期の仕事につく岩沢千秋は今日一日を無事に過ごして三千万円の退職金を手にして夕方には晴れやかに退職しようと家を出た。
ところが…
一行員が出勤してこないことから端を発し次から次へと予想もしていないことが降りかかってくる。
別の行員が承認前融資を実行してしまう。ATM機の残高が100万不足。穴埋めを考えているところへ承認前融資した会社の専務が金を引き出そうと怒鳴り込んでくる。融資担当した行員は雲隠れ。
そこへ金融庁の役人が監査にやってくる。次々と明るみにされる不祥事。
雲隠れの行員、ひと悶着の末右翼大物の家へ上がりこんで助けを求め、彼に手引かれて銀行へ戻ってくる。右翼と金融庁で蜂の巣をつついたような大騒ぎ。
さらにそこへ出勤しなかった行員が高利貸しを伴って現れる。
日ごろ信頼していた部下がこの場に及んで露呈するあれこれの不義理、背徳、無責任。これで無事に退職できるのだろうか、果たして彼の退職金は?
一日でこれほどいろいろ起こるのはフィクションであるが、演劇の台本には面白い題材ではないだろうか。様々の人間の目を通してバブル後に抱えた銀行の不良債権問題がどのような全容だったのかを知ることが出来るという面では経済学のテクストともなる。
トラブルの収束はばたばたとあっけなく収まってしまい、なんだそりゃという感じではあるがまあ喜劇だったらそれでいい。最後の最後は予想された結末だったが笑えた。