越美北線完乗

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宮脇俊三の時刻表2万キロを読むと国鉄の枝線のほんの一部を何らかの理由で乗りそびれてしまい後になってそこだけを苦労して乗り直しに行くという記述がいくつかある。富山港線の先端を乗りそびれた事情など読んで思わず笑ってしまう。私もそんな乗り残し区間がいくつもある。この越美北線の先端もその一つだ。

 

今から30年前の8月、国鉄時代にこの線に乗っている。ただし勝原までである。その頃勝原駅前に民営のユースホステルがあってそこに泊まり勝原~九頭竜湖間は翌日乗り足すことにした。その日は同宿者が2人いて翌日の行く先も国鉄バスで山を越えて越美南線に出ることも皆同じで意気投合して長く話し合った。翌朝食事時また顔をあわせて話に夢中になった。食事を済ませると…、いけない、もう九頭竜湖行きが来る時間である。今からどう急いでも間に合わない。ということであえなく乗り遅れ。

 

当初の予定では九頭竜湖まで列車に乗り、しばらく後から来る美濃白鳥行きのバスに乗り継ぐことにしていた。このバスは越前大野始発で勝原駅前も通る。同宿者の2人は勝原からこのバスに乗る予定をしていたので慌ててはいなかった。私一人苦渋に満ちた顔だったのだがその理由を話したところで彼らにわかってもらえそうになかった。そして一緒にバスに乗り降り立つ予定だった九頭竜湖駅を素通り。この借りはいつか必ず取り返すと誓って去ったのであった。

 

歳月は流れやっとその時がきた。昨日西日本一日乗り放題切符を手にして乗りに行った。福井9:08発九頭竜湖行きに乗りたい。この列車に乗るのに普通列車のみで福井へ行くには京都5:30初発米原行きに乗らなくては間にあわない。私はJR奈良線・京阪宇治線沿線在住だが、京都駅に早朝5時半に着けるような列車がいずれも運転されていない。が、ここに手あろう手水鉢。中書島5:00初発京阪宇治行きに乗ると六地蔵5:06着。そこで5:15初発二条行き地下鉄東西線に乗れば山科5;27着で5:35に山科に来る件の米原行きに乗れるのである。合計400円の出費だが新幹線やサンダーバードに乗る羽目になることを考えれば安い。こうして無事福井に8:33に着き九頭竜湖行きに間に合った。

 

やや雲が出ているが福井は晴れ。越前花堂を出ると農作地帯になる。この時期稲穂が頭を垂れて実りの秋を実感するがそれ以上に目を見張るのは一面に白い花をつけているソバ畑である。福井県はソバの産地でもある。車窓を楽しんではいたが日が昇るにつれ暑くなってくる。越美北線は福井から南下しているようなイメージがあったので、進行方向右側に座れば西向きになり午前中は日がさしてこないだろうと踏んだのが間違いだった。実はかなり東へ向かって進むので右側に座ると昼が近づくにつれ南向きになりもろに日がさしてくる。ソバ畑の白さがさらにまぶしい。

 

越美北線に乗ろうとしたもう一つの理由は3年前の水害からの復旧がなったことを見届けたかったからでもある。越美北線足羽川を渡る橋が全部で7つあるがそのうちの5つが3年前の台風16号で流失した。被害の大きかった一乗谷~美山間は橋だけでなくそれらを結ぶ路盤もズタズタに寸断された。一時は復旧が危ぶまれたがこの6月無事に再開された。乗ってみると足羽川は穏やかな清流でとても氾濫したようには見えない。色新しく塗られたトラス橋を見るとこれが被害箇所なのかと分かるが気がつかなければ今はのどかな光景である。しかし越美北線の線路際を見ているとどうしてこれだけ墓地が多いのだろうと思ってしまう。鉄道と墓地、どちらが先に建ったのか分からないがその気になると心安らかならぬ光景でもある。

 

やがてかつて下車した勝原に着く。除雪作業車を収納しているだろう小さな車両庫に見覚えがある。あのYHはどのあたりだっただろうと目を見やるがどこだか思い出せない。何事もなく発車していった。ここからは未乗区間。さあどんなところかと目を凝らす。がやがてトンネルに入りなかなか出ない。やっと出たと思ったらそこが越前下山。そして発車したと思ったらまた長いトンネルになる。トンネルを出て川に沿って大きくカーブしたと思ったら集落が見えてきて10:45終点九頭竜湖のホームに滑り込んだ。期待高まる未乗区間の半分以上はトンネルの中であった。なーんだと思って降りた九頭竜湖駅はトンネルの向こうに比べどんより曇った空だった。

 

かつて乗った山を越え岐阜県へと抜けていった路線バスはすでにない。その先にある越美南線はJRになることなく第3セクター化された。もはや2つの線がつながる可能性はないといってよいであろう。ここは本当に終着駅になったのだ。乗ってきた列車が帰っていくのを見送ると次の列車は14:32までない。それまで時間がある。レンタサイクルを借りてダムまで行ったあと温泉で一風呂浴びた。

 

実は山の向こうの越美南線も美濃白鳥~北濃を乗り残したままなのだ。今度はそこへと出向く算段をすることにしよう。

 

福井駅で サンダーバードとの並び
九頭竜湖到着 右下にHMが付いている
③越前下山~九頭竜湖間 帰りに乗る予定の列車が九頭竜湖へ向かう
④帰りは越前花堂で降りた
2007.10.7撮