女性の品格

週に2回訪問治療に行っている美智子さんは84歳、独居である。要介護1と判定されている。
膝や腰の痛みがあり高血圧もあって長い距離を歩くことや重たい荷物を運ぶことが出来ない。屋内は自分で動いているが外出には介助が必要である。掃除や洗濯のためホームヘルパーさんも入っている。
というように腰下肢の機能は年齢相応の衰えが見られるが意識はしっかりされており会話は正常で新聞を読んだり、金銭の管理などもできる。ラジオで国会中継の審議の成り行きを聴いてはこれでは選挙はまだまだ先だなどと言っている。

 

また上肢は問題なく動かすことが出来食事は自分で用意・片付けをされる。手先が器用で手芸が得意、毎年暮れが近づくと布やビーズを貼り合わせて翌年の干支の人形をいくつも作られる。みんな人に上げるために作られるのだ。私も毎年一つずつ戴いている。
「きのうは昼からずっと手仕事をしてその後片付けで肩がこっちゃって…」
治療のときよく聞く訴えである。ともかく何か手を動かしていないと落ち着けない性格で自分のことを貧乏性と言われる。

 

きのう聞いたお話には笑った。
「昨日はヘルパーさんが午前中に来るものだからそれまでにきちんとしておかなくてはと思って朝から部屋を片付けていたの。そしたら腰が痛くて…」
掃除するためにヘルパーさんが来るんですよ。
「だって女1人の家が散らかっているのを見られたらみっともないじゃない」
いえ、いいんですってば。

 

他人には取り越し苦労と思える。でもこれが美智子さんの自立を支えているこだわりなのか。
「わたしって皇后陛下と同じ名前じゃない。同じ名前なのにだらしなくしてたらそれで笑われる」
そこまで思う人間はいませんよ、といったところで美智子さんの性格を改める必要もない。
これこそが古きよき時代の女性の品格というものなのだなと実感する。

 

美智子さんが今不安に思っていること
「あまり動き回っていると今度介護保険の更新のときに要介護度を低くされるかしら」
ヘルパーさんの来る回数が減らされたらどうしようと言うのである
私としては少しでも動けるようにと伺っているのですが、どう答えていいのやら…