ローカル線ガールズ

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  嶋田郁美著 メディアファクトリー刊 本体952円

 

この本、鉄オタクの間ではすでによく知られていて著者の嶋田さんは今や彼らの間ではアイドル的存在になっているそうだ。しかし私は先日たまたま店頭で並んでいるのを見て初めて知ってその場で買った。

 

相次ぐ事故で廃線に追い込まれた福井県京福電鉄の施設一切を引き継いで発足したえちぜん鉄道。過去の出来事を教訓に安全第一で運行することはもちろんであるが、失われた信頼を取り戻し乗客を獲得することは容易ではない。「運輸はサービス業」と銘じて手探りでそのサービスを見直していく必要があった。沿線住民や観光客を乗せて走るために乗客へのきめ細かいサービスを目指して得られた結論の一つが「女性アテンダントの乗務」であった。その業務内容は「観光案内・乗降補助・切符販売」が主であるがその他のことは全く未知の状態。様々な業種からトラバーユしてきた人たちが集まってとにかく人員は揃った。著者の嶋田さんもスーパーのレジをしていたところからの転身だった。しかしどのようにしていくかは彼女たちに任され文字通り見切り発車で仕事は始まった。最初乗客からの目は冷ややかで親しまれず彼女たちの悩みが続く。それでも笑顔を絶やさず一人一人の乗客の様子を窺いながら対応していくうちに親しまれていく。その努力と苦闘を綴ったドキュメントエッセイに引き込まれる。

 

著者嶋田さんはその仕事について楽しげに書き綴っておられるが決して楽なことはないと窺える。彼女は第一期アテンダントで刊行時(2008年1月)にすでに勤続4年目になられているのだが同期は1人だけになってしまったそうだし勤務時間も不規則である。また車内で記念グッズ売上のノルマも課せられているようで若い女性なりの事情はあるにせよ3年以上続けるのは大変なのだろうと察する。またかつて関西空港が開港したのに伴って南海電鉄では関空連絡特急ラピートを走らせそれにやはり女性アテンダントを乗務させたのだが思うほど乗客が集まらずそのサービスは中止になり現在も列車は運転されているが苦戦が続いている。女性スタッフを乗せれば成功するというものでもないのだ。小さな鉄道でもその存在を認知されみんなから必要とされるには彼女たちの努力ばかりでなく周囲との連携や協力体制が磐石であることが重要なのだ。その辺のこともこの本には触れてあり成功ストーリーとして学ぶ点もある。何より読者に暗い気持ちを抱かせず彼女たちに「頑張って続けろよ、また乗りに行くからな!」と声援を送りたくなるような気持ちにさせてくれる。

 

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最後に上の写真でお分かりのようにえちぜん鉄道の電車は前面行先表示の横に「ワンマン」と書かれている。確かに車掌が乗らないという意味では運行業務に携わるのは運転士一人のワンマンであるが、彼女たちの仕事は車掌の業務を補って余りあるものがあると思う。法的な規制があるのかもしれないが彼女たちの存在を認めるという意味でこの表示は止めておいたらどうだろうか。